松野和貴
イラストレーター / 絵本作家。
1980年生まれ。透明水彩とペンを使って、ダークすぎず、メルヘンすぎないファンタジーな世界を描いています。コンセプトは「あったらいいな」。書籍、広告、イベント用のイラストや、絵本を中心に活動中。壁画や展覧会出展、ワークショップも手がけます。
CREATOR WORKS
ビリケンさんと季節たち
「If…」
四季には折々の良さがあり、私たちはその素晴らしさを感じて一年を過ごしています。
みんな好きな季節があるだろうし、季節ごとの良いところも悪いところも知っています。
季節とは一体なんだろう。単純に時期や気候、太陽との位置関係と言うことに納めてしまうにはあまりにも勿体無いと思うわけです。
これはそんなところから生まれた空想の話です。
もし、季節がはっきりと意思を持っているとしたら、四季折々の悩みだってあるはずです。
私たちと一緒で他から見ると良いところと思われていても、本人たちは少しも気に入っていない、むしろ嫌いなところであることもよくある話。
例え季節に悩みがあっても、季節ほど大きな存在の悩みを私たちが聞くことはできません。
「全治全能」とされるのビリケンさんなら、どうやって四季たちの悩みを解決してくれるのでしょうか。
そんな事を考えて制作した作品です。
春のお願い
何故新しい事を始めたがるのか。私の季節になるとみんなどうしてか今までとは違った事を始めてみたり、気持ちを切り替えて再出発を試みる。私はそのことがとても嫌なのです。花も動物も虫も、人間もみんなそうです。今まで眠っていたかのように動かなかったものたちが一斉に動き出すわけです。ただ「春になった」と言う理由で。
とりわけ人間は4月に特別なことでもあるのか、いろんな事を始め出します。なんの遠慮も無しに私へ寄せられる、膨大な量の期待感がとても嫌なのです。私だってじっと我慢をしていたわけではありません。
花粉、花冷えや眠気、様々なものを送り込んで、その意気込みを少しでも挫いてやろうと試してはいるけれど、どれもあまり意味が無いようです。
嫌がらせだけでは無いですよ。暖かい日差しや桜、縁だって運んでいます。
嫌われたくはありませんから。でも何か良い方法は無いかしら?
とビリケンさんの足裏を掻きます。するとビリケンさんはこう言います。
「この瓶の中には霞が入っている。必要な時に蓋を開ければ、一面霞んで、少し前に進もうと言う気持ちを抑えられるかも。」と
夏のお願い
気づけば陽気で能天気な連中であっという間に溢れかえってしまう。
春に自分を無理やり奮い立たせたから鬱屈とでもしてしまったのだろう。
その反動が解放を求めて浮かれさせてしまうのだ。きっとそうに違いない。
そんな空気感にはうんざりだがそれよりももっと大きな問題がある。
太陽のやつだ。なんだってこんなに長時間照らされ続けなければならないのか。春でも秋でも冬でもいいじゃないのか?しかし言っても仕方のない事。今まで暑いのは夏だと決まっているようだし、これからも変わりはしないと思う。でも夏の私には理想がある。それがほんの少しでも叶うのならある程度我慢できる気がするよ。私の理想は、ただ夏を理由に海やプールで浮かれ騒いだり、空調の効いた涼しい場所でだらだらと過ごすのではなく、避暑できる場所を探して静かに自分と向き合える時間を作る。自分の心を大切にして夏を崇高に楽しんで欲しいのだ。
とビリケンさんの足裏を掻きます。するとビリケンさんはこう言います。
「それなら入道雲をあげるよ。暑すぎる太陽からこれでみんなを守るといいんじゃないかな?」と
秋のお願い
虚しさが募って仕方がないんだ。夏はとびきり楽しかったのだろう。
そして次は冬にむけてみんな準備して、秋ではなくその後を楽しみに過ごしている気がしてならないんだ。確かに冬は寒いから準備をしないと大変なことになるもの。夏や冬は長いが私はとても短い。どんなに短い間でも冬のために食べ物や綿、羊毛だって用意しないといけないだろう?とっても忙しいんだ。精一杯やっているんだよ。見返りがほしいわけではないんだ。私が忙しいのと同じに収穫するみんなも忙しいに違いないから。何せ私は短いからね。四季たちはみんな自分の季節を楽しんでもらいたいと思っているんだよ。私だってそうだ。
美味しいものを用意しているし気温だってちょうど良いだろ?それに少しでも暖かい気持ちになってもらえるように色んなものを赤やオレンジに染めることだってしている。楽しんで欲しいんだ。
とピリケンさんの足裏を掻きます。ビリケンさんはこう言いました。
「つまり時間が欲しいのかい?ならば夜を少し長くしてみよう。
そうしたらきっと楽しんでもらえるよ。」と
冬のお願い
これは寒さの問題では無い。みんな寒いなりに何かしらの方法で寒さを楽しんでもらえていると思っているからね。唯一困っていることがある。それはとても暗いことだ。寒い上に暗いと気持ちが落ち込むんじゃ無いか。そんな心配が尽きないんだ。なんとかしたくてみんなでいろんな場所に光を灯したりするけれども、何か違うんだ。灯した場所にいる時は良いみたいだけれど、それが見えなくなるとみんな途端にまた気分が落ち込みやすくなる。何かこう、雰囲気の全てを明るくしなくちゃいけないようだけれども、とてもじゃないがみんなで頑張っても追いつかないんだよ。冬に暖かさを求められるのは一番困るから、何か明るいものとか、ことが欲しいな。そうすればきっと寒い冬も楽しいものになってくれると思うんだけれどどうかしら?とビリケンさんの足裏を掻きます。ビリケンさんはこう言いました。
「寒い時にしか味わえないものに明るさがあれば良いんだね?
そうなると元々ある灯りをよく見えるようにすれば良いね。
つまり空を澄んだものにすれば星がよく見えるかな?」と